27 December, 2019

INSEADを振り返って:良かった点、注意すべきだと思った点



19DMackです。このほどINSEADを卒業しました。

この一年はまさに矢の如く、あっという間に過ぎていきました。人生で最も早く、人生で最もtransformativeな一年であったと感じます。このような素晴らしい学びの場を提供してくれたINSEADにはとても感謝しています。


INSEADは非常にユニークな学校です。私も学校選びにあたっては色々な方に話を聞き、多様性に溢れるキャンパスで刺激的、一年制で忙しい、など色々な情報を得ておりましたが、実際に体験しイメージ通りだった部分と、入学して驚いた部分と両方ありました。受験者の皆様がINSEADについてより深く理解し、ベストな学校選びができるようにと思い、本稿では、INSEADの特徴を良かった点、人によって注意が必要な点に分けてお話したいと思います。

なお、これらはあくまで私個人の見解であり、直近のINSEAD生を代表する意見ではありません。今回、記事を執筆するにあたり多くの卒業生、在校生から意見を頂きましたが、個々人の学校に対する意見は決して同一ではありません。各生徒が様々な経験をする中、全体のブログで学校に対する個人の意見を公開するのはどうかと悩みましたが、それでも受験者にとっては有用な情報だろうと思い公開しました。ぜひ、記事であげた内容について、ほかのINSEADの在校生、卒業生にどう思うか聞いてみてください。様々な人の意見を聞いた上で、INSEADを選んでいただければと思っています。


INSEADのいいところ】


クラスメート

INSEADに来て良かったと思う一番大きな理由は、素晴らしいクラスメートに出会えたからです。INSEAD生の特徴を挙げるとすれば、internationalopen mindedcuriousdon’t take it too seriouslywork hard/play hard、こういった言葉があてはまると思います。特に国際性はINSEADの特徴で、二重国籍は当たり前、出身国以外の国で働いた経験がないと珍しがられるほどです。自身もマイノリティとして生きてきた経験がある人が多く、異文化を理解し、分かりあおうとする姿勢があります。お互いの人間そのものに興味をもってコミュニケーションを取っていこうぜ、という雰囲気なので、言語や文化の壁で苦労しがちな純ジャパ生徒でも友達ができやすいと言えます。平均年齢29歳と比較的matureなのも影響していると思います。


また、ビジネスパーソンとして皆超優秀です。クラスのディスカッションでは鋭い意見が交わされ、大変刺激的です。優れた人間性と頭脳を兼ね備えたクラスメートとのネットワークは一生の宝物です。



一人ひとりの人間性と、多様性を重んじる校風

米国のあるトップMBAに交換留学した生徒は、留学先のcompetitiveでキャリア志向の強い生徒たちに馴染めなかったと言っていました(カナダ人なので言語の壁はなし)。曰く、「あっちの生徒は自己紹介するとき、自分は投資銀行出身で、これからはPEに進むつもりだ というようなキャリアのことしか言わない。INSEADとあまりに違うので驚いた」。

INSEADでは、キャリアだけでなく、どんな面白い人生を歩んできたのか、というトータルな人間性に皆より興味があるように感じます。このように好奇心があり、異質なものに寛容な人々が作り出すカルチャーは、まさに「世界に一つだけの花」を地で行くような世界です。肩肘張らず自分らしく居ることが肯定されるようなINSEADは本当に居心地がよかったです。


ただ単に居心地がいいだけでなく、自身の価値観もそれによって大きく変わりました。私は比較的頭が固く、キャリアの選択や日々のふるまいなどについて「こうすべきだ」という価値観が強いほうだったのですが、様々な人生を歩み、多様な価値観を持った同級生から刺激を受け、大きく変わりました。自分が狭い価値観に囚われていたことに気づき、周囲に対しては勿論、自分自身に対しても寛容になれたと思います。日本のようなhomogenousな環境にいては、起きえなかった変化だと思います。


Business Ethicsの授業で、名物教授が投げかけた言葉が印象に残っています。「人間とは異質なものを排除したい生き物である。その意味で、INSEADのような誰もがminorityというような環境に進んで入ってきた君たちは非常に進歩的である。そんな君たちが他者に寛容であることは当たり前。君たちの使命は、人々にその価値観を伝えていくことである」。Diversityに富む社会づくりが求められる昨今だからこそ、INSEADで学ぶことの価値は高まっていると感じます。



欧州・アジア・中東での経験

INSEADはフランス・シンガポール・アブダビと3か所にキャンパスを有しており、bidding次第で様々な地域で学ぶことができます。予算と時間が許せば各地を旅行しまくれるのは大きなメリットです(INSEAD生はとにかく旅行好きです)。また、欧州・アジアでの就職を考えている人にとって、その地域に実際にいることは大きな利点です。採用担当者やアラムナイとのネットワークを広げることができれば、現地就職の可能性が大きく高まります(学校側のサポート体制については後述)。



Political correctnessを学べる

多様性に溢れるINSEADですが、生徒が持っている価値観はおおむね「リベラル」です。INSEAD生のリベラルな価値観とは、男女平等、Social responsibility(特に環境問題)、Embrace diversitysexual minorityへの寛容性を含む)、などです。これらの価値観を公にはサポートする姿勢をPolitically correctであるといい、Politically correctであることはグローバルビジネスパーソンのマナーともいえると思います。例えば、エグゼクティブの立場にありながら、「温暖化は嘘です。弊社はCO2排出など気にしていません」とか、「脳科学的には男のほうがエンジニアに向いている」などと口に出すのはタブーと言えます。教授も生徒もこれにはかなり気を使っている印象で、こうしたグローバルな場における機微を学べたのは、純ドメの私には私にはよい経験だったと思います。


【注意しておくべき点】


就職先
これだけ多様性のある生徒が集まっているにも関わらず、INSEAD生の就職先にはあまり多様性がありません。生徒のほとんどがMBBをはじめとする戦略コンサルティング会社に就職したいと思っています。体感的に、就活する学生の7割がコンサルを目指します。すごく悪く言えば、INSEADにはコンサル就職塾みたいな側面があります(もちろん、はじめからコンサルに行きたい人にとってはこの上ない環境です)。


特に1月入学の場合、学校開始直後からインターン獲得のために激しい面接特訓が繰り広げられます。どこもでもかしこでもケース面接の練習が繰り広げられ、キャンパスは異様な空気に包まれます。その熱気はすさまじく、もともとコンサルを志望していなかった生徒も「やっぱりコンサルを受けないといけないのかな」などと流されはじめ、結果的にはほぼすべての就活生がコンサルに応募します。

勿論、コンサルファームの仕事は非常にやりがいがありますし、企業経営を目指す人にとってはとても良い修行の場です。また、世界中のオフィスで国籍問わず採用を行っているので、卒業後に別の地域で働きたいINSEAD生にとっては非常に良い選択肢であることは間違いないです。一方、アントレやコーポレート、スタートアップ等を目指してINSEADにくると、クラスメートのコンサルを目指す熱量に圧倒されるかも知れません。もちろん、多くの人が実際アントレ、コーポレート、スタートアップの道に進んでいますが、上記のリスクを頭に入れ、ぶれずに就活する強い意志を持つことが大切です。


キャリアセンター
卒業後、どのような地域・業界に就職するかは重要な問題です。INSEADの就活、またそれをサポートするキャリアセンター(CDC; Career Development Center)はやや独特なので、特徴をきちんと理解しておくべきだと思います。

INSEAD
のキャリアセンターに対する評価は生徒によってかなり分かれます。このばらつきは、卒業後に業種と地域をガラッと変えたい学生が多いことに由来する気がします。

INSEAD
は欧州、中東、アジア、北米、南米とあらゆる地域で就活が行われるので、CDCのカバレッジはどちらかというと薄く、広く、という感じだと思います。また、エンジニアなどTransitionが必ずしもeasyでない職種から業種・地域を変えたい人が多く、画一的なサポートが難しい側面があると思います。

一方、アメリカの大学だと、ほとんどの生徒がアメリカに就職するということで、アメリカの就職情報が大量に入ってくると思われます。また、アラムナイもほぼアメリカに集中しているので、コネクション面でも厚みがあるでしょう。更に言えば、投資銀行→PE、メガテックスタートアップなど、比較的transitionがスムーズなキャリアパスを選ぶ人が多いのではと思います。LBSに関して同様です。

上記をメリットと取るか、デメリットと取るかは、どこの地域での就職をターゲットしているかによると思います。先の通り、北米とロンドンでの就職を目的にMBAを目指すのであれば、米国MBAもしくはLBSのほうが望みが叶いやすいでしょう。一方、アジアやヨーロッパ、中東などでの就職も視野に入れている方、Industryの方向性をガラッと変えたい方はINSEADはよい選択でしょう。なお、統計的には生徒の78%が地域、業種、職種のいずれかを、26%が三要素全てを卒業後すぐに変えています。19D日本人でも、私費生6人のうち2人が三要素全てを変えました(メガテックのルクセンブルグオフィス、コンサルのマレーシアオフィス)。

インダストリーとしてはやはりコンサルが強いです。金融(投資銀行、PE、銀行など)は手厚いサポートがある印象ではありませんが、そもそも志望する人が少なく、またINSEADは夏休みが短いため、投資銀行やPE就職に必須のサマーインターンができないことが影響しています。最近ではスタートアップへの就職が人気ですが、こちらは徐々にCDCのカバレッジが増えている印象です。例えばFintech大手(NubankTransferwiseRevolutなど)はキャンパスに来ていましたし、ベルリンTrekでも有名スタートアップを回ったりということがあったようです。ただし、小さなスタートアップの情報がCDCにふんだんに入ってくるわけではないので、そこはCDCを頼りにしすぎず、地の利を生かして現地へ飛ぶなり、アラムナイのネットワークを活用してプロアクティブに探してくる必要があります。

Academics

INSEADの授業・カリキュラムには下記のような特徴があります。

生徒と教授の距離が近くinteractiveであること
INSEADは、授業中の発言が推奨されており、時には教授そっちのけで生徒同士が激しく議論をしたりします。異なるバックグラウンドを持った生徒たちからの多様な意見は本当に勉強なりますし、INSEADの醍醐味だと思います。ある米国トップ校に交換留学した生徒は、そこでは大教室での教授からの一方的なレクチャーが多くつまらなかったと言っていたので、interactiveな授業スタイルはINSEADの特徴なのだろうと思います。

一方で、手を挙げてから考えるみたいな人も多く、議論が発散しすぎると消化不良が起きます。このとき、議論をまとめるのが上手で、Key messageをビシッと言える
教授だと場が締まります。残念ながら上手にFacilitateできない教授もいましたしたが、まあビジネススクールではどこであれ、クラスの当たり外れがあるので、ある程度は割り切るしかありません。

教授陣に関して付け加えると、ブルーオーシャン戦略のチャン・キム教授などは有名ですが、全体として何か特定の領域に強い、ということはないように思えます。Whartonならファイナンス、Kelloggならマーケティング、みたいな特徴はなく、どちらかというとGeneralistタイプな学校だと思います。ある領域において最先端の理論を学びたい、という方は、より注意深いDue Diligenceが必要だと思います。

一クラスが非常に短期間で終わること
INSEADでは、一年で米国MBA二年分のカリキュラムを終わらせるため、ひとつひとつの授業が割と詰め込みになります。特にコーポレートファイナンス、アカウンティング、統計などビジネスの基礎をゴリゴリ学ぶ一学期目は、ある程度のビジネスバックグラウンドがないと消化するのが辛いです。選択科目でも、3週間で一単位(1.5h×14回のレクチャー)を終わらせたり、週末土日の集中講義で0.5単位終わらせたりと、一つの授業に使える時間は短いです。

これこそが、一年制MBAの一番の特徴です。良い悪いはありません。一年という短い期間で様々な科目を学べることはメリットである一方、一つ一つの授業に使える時間が短いことはデメリットでもあります。


総括:学校の要改善点はままあれど、私はINSEADを選んだことを全く後悔していません。30歳にしてこれだけtransformativeな経験ができるなど想像もしていませんでした。また、グループメートとの侃々諤々の議論、欧州・アジア旅行、Japan trip、友達とのパーティー等、思い返せば涙が出るような、一生の思い出ができました。金と、時間と、体力がある30歳前後がMBAのベストかつ、ラストタイミングだと思います。今後も、多くの方がINSEADに入学し、人生を変えるような経験を得ることを願っています。