15DのCZです。
私は15Dで唯一の社費派遣生ですので、今回はその立場からの主観的考察を書いてみたいと思います。
結論に入る前に、先ず以下の原則を共有させて頂きたいと思います。
<ビジネススクールは原則的に就職予備校である>
私が感じる、MBAプログラムが提供する価値及びそれらの配分は下記の通りです。
1. ハードスキル (10%)
2. ソフトスキル (30%)
3. プロフェッショナルネットワーク (20%)
4. ブランド (40%)
それぞれの項目について簡単に説明します。
・ハードスキル
授業で得られるハードスキルの大半は自分で本を買って勉強すれば習得できるものです。それらのハードスキルに意味があるか無いかで言えば間違いなくありますが、原則的に自習可能な以上これはMBAプログラムが提供する本質的な価値とは言えないと思いますし、(そんな人がいるとは思えませんが)ハードスキルの習得のみを目的に何千万円という高額な費用(授業料、生活費、機会費用)を払うのは正直言って相当に無駄だと思います。
・ソフトスキル
MBAではクラスであれグループワークであれ、他の学生とのインタラクションを通してコミュニケーション能力やリーダーシップといったソフトスキルを研鑽することが出来ます。これは実際に人間が一か所に集まる環境でなければ得られないメリットであり、MBAの大きな付加価値と言えます。一方、この点は集まる学生の質に大きく左右されますので、学校側も選考を通して学生の粒を揃えるのに腐心していると言えます。
・プロフェッショナルネットワーク
多様な業界・国・組織の人間と個人的信頼関係を結ぶことで作るプロフェッショナルネットワークは、特に転職活動時に最大の効果を発揮します。例えば希望する企業に勤める人間を探してキーマンを紹介して貰ったり、興味のある業界についてその道のプロから根掘り葉掘り話を聞いたりすることが出来ます(お礼のビールは忘れずに)。これには、大きくはアルムナイネットワークも含まれます。特に欧米では属人的な採用をする企業も多い(MBA生に人気のPEファンドなどはその典型です)ので、日本と比しても人的ネットワークの重要度が上がります。この点でも、High Achieverが集まるMBAはネットワーキングをする上で非常に効率の良い場所となりますので、付加価値が高いと言えます。
・ブランド
「MBAはパスポートである」という表現がある通り、MBAはある程度の能力の証明、ひいてはキャリアチェンジの際の身分保証として機能します。MBAを持っていると、それなりのビジネス知識(財務、会計、戦略、マーケティングetc)、論理的思考力、分析力、英語力、コミュニケーション能力等を有していることをシグナリング出来るためです。これらの能力を万遍なく有している人間はGeneral Managerに向いている傾向があるため、そういった人材を探している企業(コンサルティング会社や事業会社のマネジメント候補ポジションが代表格)が向こうからリクルーティングにやってきてくれます。これも結局学校のReputationに比例するわけですが、MBAのもたらす大きな付加価値といえます。
これら四点のうち、特にプロフェッショナルネットワークとブランドは、入学前に想像していた以上に転職市場における価値が高いと感じています。だからこそMBA生は皆授業そっちのけでパーティーに行くのであり、「トップスクール(ブランド校)でなければ意味が無い」という言説が生まれるのです。MBAというのは基本的に(起業も含めて)「キャリアチェンジ」したい場合に最大の効果を発揮するプログラムなのです。
さて、その上で本題の、「社費派遣生にとってのMBAの価値」について書きたいと思います。
既にお分かりかと思いますが、社費派遣生の最大のネックは、MBAが提供する四大価値の二つである「プロフェッショナルネットワーク」と「ブランド」の双方が殆ど全く生かせない、ということに尽きます。プロフェッショナルネットワークは、例えば私が派遣元である総合商社に帰任して海外で新規ビジネスを作ろうと思った際に頼れそうな人間が沢山いるという点で何となく役立ちそうに感じられますが、実際には私のINSEADの友人がたまたま対象企業のキーマンになっている、という可能性は低いでしょう。ブランドについても、一度会社で働き始めれば実績が全てであって、INSEAD MBAという肩書は最早何の役にも立ちません。
つまり、社費派遣生はMBAが提供する価値の約6割は元から生かせないのであって、派遣元の企業から見れば、私の1ハードスキルと2ソフトスキルの向上のために、実際の価値の数倍に当たる金額を投資しているようなものである、と言えるわけです。これは一般的な感覚からすれば筋の悪い投資ですし、投資を受けている此方側としてもなかなかにプレッシャーがあります。ただ、純粋な個人のROIとして見た場合は話が違います。社費派遣生にとっては、Investmentは実務の現場から離れることによる「キャリアロス」のみで、学費や生活費の負担がゼロ(日系企業の場合むしろ大幅なプラス)ですので、プロフェッショナルネットワークが使えなかろうがブランドが無意味だろうが、ROIはほぼ確実に1を大きく超えます。単に、派遣元企業に戻る場合MBAの潜在価値の約6割が回収できないので残念、というだけです。
尚、逆に私費生の視点から考えれば、MBAの提供する価値をフルに使えるというのがメリットになります。ただ、これも元々のInvestmentが大きいため、ROIを上げるためにはReturnを追及しなければいけないということになり、職業の選択肢が意外と限られてくる(高給を支払う会社である必要がある)のがデメリットと言えます。
一年制のINSEADは二年制の学校と比べてInvestmentが大幅に少ない割にReturnが大して変わらないという点で、一般的にROIが高く、競争力があると言えます(実際、同級生でHBSないしStanfordを蹴ってINSEADに来た人たちは、皆ダイバーシティーでも欧州という立地でもなく、一年制であることを最大の理由として挙げていました)が、これは特にInvestmentを自分自身で行う私費生にとっての大きなメリットと言えます。社費派遣の場合は、何せInvestmentを他人が肩代わりしてくれている状況なので、キャリアロスさえ恐れなければゆっくり出来る二年制の方が基本的には魅力的に映るでしょう(私の勤める企業でも、社費派遣生の間では二年制MBAが圧倒的に人気です)。
ただ一方で、私自身が感じているのは、社費生は就活を基本的にしないので私費生よりずっと時間的・精神的余裕があるため、一年制でも十分な経験が積めるということです。Intensityで有名なINSEADですら、四学期以降負担が減っていき、最後の五学期は週2,3回しか登校しないのが普通ですので、「仕事ばかりで疲れたので、家族とちょっとゆっくりする時間が欲しい」、という(本音の)需要も実はかなり満たされます。
ということで、社費派遣でMBAに行く方、そしてこれから社費派遣選考を受けることを考えておられる方々は、上記のことをよく踏まえた上で受験プロセスや学校選定を進められては、と思います。纏めて言えば、INSEADはハードスキルもソフトスキルも学習環境は一流ですので、INSEADを選んで失敗することは無いと私は思います。そして、比較的余裕のある社費MBA生だからこそ、一年間で卒業できるINSEADが最適、と思います。